経営コラムColumn

後継者や役員を育てる③~企画力の重要性~

後継候補人材に必要な3つの能力

社長と対等な議論ができ、リーダーシップもある後継者を育てるには、情熱、企画力、コミュニケーション力を鍛える必要があります。前回は、使命感や情熱を養う方法について紹介しました。今回は、企画力の重要性について考えてみましょう。

企画力は、課題発見力

「問題とは、理想像と現状のギャップ」のことを云います。従って、理想像を描いていない、あるいは、現状認識ができていないと、問題は存在しません。つまり、現実逃避して夢ばかり語っている人、理想像を描くことなく現状に甘んじている人は、どちらも問題意識が欠如していると言えます。問題意識が高いとは、目標と現状のギャップを鮮明に認識し、そのギャップ解消に強い意志を持っている状態を云います。

「課題とは目標と現状のギャップを解消する取組み」のことを云います。このギャップを効果的に解消できるシナリオを描く力を企画力と云います。この企画力は、企画部門に限らず、マネジャーや営業スタッフなどでも有用ですが、多くの企業では、その教育方法を知らないので何の取組みもされていません。

理想像の大切さ

企画力に優れた人は、理想像を鮮明に描くことができます。しかも、それは、業績ではなく、顧客関係や商品力、人材育成、仕事の仕方など体質面の理想像を描いているのです。
新車ディーラー(カーディーラー)で優秀な営業スタッフYさんは、営業経験5年にもかかわらず、管理客600台中、約6割は次期代替(時期、車種、代替理由)を合意し、年販100台を実現しています。全社平均では、営業スタッフ1人あたり、管理客600台中、次期代替合意1割、年販50台前後です。

Yさんは、理想的な顧客関係を構築しています。お客様に喜んでもらうために、お客様の近未来を想像し、「ご子息が少年野球を始めたなら練習や試合の送迎のために、次は車検ではなく、ミニバンに買替しませんか?」といったジャブ提案をします。すると、「それもあるけど、両親と同居することになったので、半年後には、買替えたい。」というように、お客様理解を深めながら次期代替ストーリーを合意しています。また、車以外のことでもお客様のお役に立つように、友人知人や他のお客様を紹介することを心掛けています。その結果、取引先紹介や悩み解消などで喜んでくれたお客様は、リピーターになるのは当然、紹介も増えるようになります。
このYさんは、管理客との顧客関係の理想像とそれを実現するための取組み方法を鮮明に描いているのです。

一方、業績低迷している営業スタッフは、今日の顧客接触件数をこなし、目先の代替需要を探すのに忙しくしています。彼は、本質的な理想像を描くことをせず、日々を無駄に忙しく過ごしているのです。しかし、彼に対して、顧客関係の現状と理想像について質問や示唆を与えながら考えてもらうと、お客様に関心を持って趣味や関心事を理解し、共感し、お役に立てることはないかとの姿勢に変わり、Yさんのような理想像を描くようになり、業績も大幅に改善するようになります。
もちろん、理想像を実現するためには、様々な取組みが必要です。笑顔で明るい声を出す訓練、お客様との会話が弾むように新聞を購読し、趣味を増やし、お客様の仕事を興味深く聴くことなども、最初は大変かもしれませんが、理想像が明確になれば達成感も味わえるので頑張れるものです。自分自身の成長を実感できるのも楽しくなります。
これは、営業スタッフ個人のことですが、これも企画力を理解するためのエピソードです。対象が組織やお客様に拡大しても、企画は、理想像を鮮明に描くことなしには、成功し得ません。

良好は偉大の敵

ビジョナリー・カンパニー②飛躍の法則(ジェームズ・C・コリンズ著、日経BP社)に、「良好は偉大の敵」という言葉があります。トラブル・クレームが多い、業績が低迷している、人が定着しない等、問題のある部門を良好にするのは大切なことです。しかし、リーダーが良好に満足してしまうと組織の成長も止まります。良好に満足するのではなく、業界の先進事例となるような創造的なテーマに挑戦し、取組むことも重要です。その結果、人材が育ち、体質が強化できます。

皆様も、良好な現状に満足し、より素晴らしい理想像を描くことをやめていませんか。理想像を描き続けることは、企画力を高めるために最も重要な条件です。

企画力の要件

企画力には、下記のような要件が必要です。本稿でご紹介した「良好に満足せず、偉大を目指し、理想像を描く」という考え方は、下記の①に通じるものです。しかし、これだけでは、十分とは言えません。問題を解消する効果的効率的なシナリオを設計するとともに、それを情熱的に遂行する力も必要です。

次号では、下記の要件を踏まえて、企画力を高めるための具体的方法をご紹介します。

 

  1. 意義を見出せるゴールを明示する
  2. ゴール達成に向けて情熱を傾ける
  3. 論理的思考力、説得力を鍛える
  4. 危険を予知し、事前に除去する
  5. クリティカルパスを見抜き、適切なタイミングで関与する
  6. 適度なストレッチで人材を育成する

推薦図書

  1. ビジョナリー・カンパニー②飛躍の法則(ジェームズ・C・コリンズ著、山岡洋一訳、日経BP社)
  2. 新版[図解]問題解決入門 問題の見つけ方と手の打ち方(佐藤允一著、ダイヤモンド社)
  3. 新1分間マネジャー部下を成長させる3つの秘訣(ケン・ブランチャード/スペンサー・ジョンソン著、 田辺希久子訳、ダイヤモンド社)
  4. 新1分間リーダーシップ(ケン・ブランチャード /パトリシア・ジガーミ /ドリア・ジガーミ著、田辺希久子訳、ダイヤモンド社)
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代表取締役会長 沖 晋 Susumu Oki

1960年北海道生まれの九州育ち。1985年上智大学卒業後、大手経営コンサルタント会社入社。
業種業界問わず、戦略策定支援、人材育成支援等、多岐に亘るテーマで300社以上の企業に対してトップコンサルタントとしての指導実績を持つ。
営業力、商品力双方の強化による業績改善を得意とする。

また、実業進出後は、理念経営による人材育成、組織開発を重視するようになった。理念、戦略、商品力、現場まで首尾一貫した組織づくりによる企業再建も経験豊富。

2004年から車買取販売カーリンク本部の代表者となり実業にも進出。2019年現在100店舗展開中のカービジネス研究所取締役会長も兼務する。

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