経営コラムColumn

後継者や役員を育てる⑤ ~コミュニケーション力を養う~

経営者に必要な3つの能力

 経営者は、情熱、企画力、コミュニケーション力を鍛える必要があります。今回は、コミュニケーション力の重要性と養い方をご紹介します。

コミュニケーションの重要性

コミュニケーションは、人間の信頼関係を作り、維持する大切なものです。「それはコミュニケーションの問題であり本質的な問題ではない」とよく言いますが、その考え方は間違いです。コミュニケーションこそが本質的な問題なのです。親子関係でも憎しみ会うなどということが起こりますが、これはコミュニケーションが悪いという以外の何ものでもないのです。

「コミュニケーションが下手」なのは、「性格が悪い」と同等の欠陥です。「自分はコミュニケーションが下手」だと思う人は、周囲の人に無関心で愛情が持てない人間ではないかと自問し、見直す必要があると思います。コミュニケーションから逃げてはいけない。上手に話せなくても、関心を持って相手の話を聞くだけで良いのです。そうすれば、人間関係が良くなり、心が豊かになります。

本稿では、特に部下を上手に育てるためのコミュニケーション力についてご紹介します。

Ⅰ.部下との信頼関係を築く感情移入
皆様は、部下を持つ上司の立場で仕事をさせてもらえることに感謝の気持ちを持っているでしょうか。それは自分一人の力で獲得したものではなく、社会で数多くの方々から育てられてきた結果の恩恵です。従って、部下は社会からの預かりものと考え、育成してお返しする気持ちが必要です。

部下の成長に力を貸すときに大事なのは、部下への感情移入です。上司が部下に感情移入することではじめて部下が上司に感情移入してくれるようになります。部下に関心を持ち、人間関係を作り、部下の目指す状態、抱えている問題を把握し、その実現や解決に向けて話し合い、部下が理解納得できれば、確信を持って行動してくれます。但し、部下からの信頼残高が少なければ、いくら感情移入しても、部下から感情移入してくれることはありません。従って、常日頃、自分自身の言動に細心の注意を払うよう努力が必要です。

感情移入とは「他人の心理の内に自分自身の感情や精神を投射して直接理解する」ことです。私たちは、言葉だけでは、相手を理解することはできません。相手の状況や背景を把握し、なぜそのように発言しているのかを理解する必要があります。そのために必要なのが感情移入です。

たまに、「こんなことも分からないのか」と部下に怒る上司がいますが、怒っても何の問題も解決しません。あるがままに認め、部下の経験やスキルなど現状を正しく把握し、仕事の与え方を考えて育てるより他に方法はありません。それこそが上司の仕事です。

Ⅱ.部下の思考力を高め成功体験を積ませるレビュー
レビューとは、「再調査する」の意味です。企画や計画、業務設計、商談、顧客管理などが適切かどうかを早い段階で確認し、問題を発見し、助言します。これにより、暗黙知(仕事のコツ)が共有され、能力向上が図れます。

レビューでは、具体的な解決策を明らかにすることが必要ですが、それだけではなく、部下に成功体験を積ませることが重要なのです。成功体験こそが、チャレンジ精神を生み出すのです。

もし、部下が上司からの指示や助言を待つ受け身の姿勢だったり、粗探しをされるという苦手意識からその場をやり過ごそうという姿勢では、価値のあるレビューはできません。「レビューは、上司と部下の真剣勝負の場」ということを正しく認識させ、プレシンキング(事前にしっかり考える)をして臨ませることができれば、価値あるものになります。

しかし、プレシンキングさせても妙案が一向に出てこない部下もいます。そんな時、「それではだめだから、こうしておきなさい。」と安易に答えを教えて指示を与える上司がいますが、これが良くありません。部下は、「結局、上司が答えを教えてくれる」と甘えて、いつまで経っても自立しません。このような部下には、「あなたはどうしたいの?それはなぜ?」、「お客様の関心事、悩み、要望は何だと思う?」、「この場合、どんなメリット・デメリット、リスクがあると思う?」と質問による指導を繰り返し、部下の思考力を鍛えるのが上司の仕事です。

Ⅲ.部下の視座を高める共通の志や目的
相手と共通の志や目的があれば、好き嫌いにかかわらず、自らコミュニケーションをとる機会が増えます。また、皆で目的を達成し、その喜びを分かち合うことは素晴らしいものです。これを繰返すことで組織は一丸となります。

しかし、多くの職場では、自分の仕事は責任をもってやるが、職場全体や同僚のことに無関心な人が多いと感じます。そういう職場は、往々にして、ネガティブな言動が多く、ギスギスして、覇気がなく、暗く、業績も低迷しています。

こういう職場の組織風土を改善するのは実は簡単です。「この職場、どう感じている。率直な意見を聞かせて欲しい。・・・では、どうしたら良いと思う。」と個別面談すると、過半数は問題を感じていることが分かります。それに対して、「元気な挨拶、ありがとう、笑顔、ポジティブな言動が溢れて、楽しい職場にしたい。私が率先垂範するから協力して欲しい。」と言うと喜んで協力してくれる人が6割以上はいます。わずか数日で職場は明るく変わります。身勝手でネガティブな言動が多かった人も1ヵ月後には自省心が芽生えます。それでも変わらない一部の人は、居心地が悪くなり辞めていきますが、業績は確実に改善します。

部下の仕事に関しては、きめ細かに指導している上司でも、「職場や会社を良くする。」という志や目的を共有し、部下の視座を高めることができている人は意外に少ないです。これができるようになると、組織を一丸にすることもできるし、リーダーシップに優れた部下を育てることもできます。

部下とのコミュニケーションが自分を成長させてくれることに感謝する

部下の成長を感じられたら、これほど嬉しいことはありません。また、部下が自分の考えに賛同してくれるのもモチベーションになります。さらに、部下の成長を感じることで、「自分が追い抜かれるかもしれない」という危機感が自身の能力と存在価値を高めようという意欲につながります。だからこそ、部下とのコミュニケーションを好み、その品質向上を追求してもらいたいと思います。

推薦図書

  1. 指導者の条件、松下幸之助著、PHP研究所
  2. 人を動かす、D・カーネギー、創元社
  3. 新1分間リーダーシップ、Kブランチャード・Pシガーミ・Dシガーミ著、ダイヤモンド社

今月のコンサルタント

「部下を上手に育成するコミュニケーション力」は、きわめて重要なスキルですが、座学研修だけでは、あまり効果が上がりません。これを修得させるには、OJTが必要です。
私たちコンサルタントは、座学研修後も、上司と部下のコミュニケーション機会(会議や個別打合せ等)に3~4回、同席します。私たちが発見したコミュニケーション課題を上司部下双方に指摘し、改善の方向性を示唆し、これを繰返すと、その職場の組織風土は一気に改善し、上司部下ともに飛躍的に成長します。
上司は、質問による指導が上手になり、対人感受性と思考力が高まります。部下は、思考力と視座が高まり、身勝手だった人も気遣いができるようになり、他責でネガティブな言動が多かった人も自責でポジティブな言動に変わります。こうなれば、あっと言う間に職場や会社が良くなります。
目標を掲げてもなかなか達成しない、改善が見られない会社や職場の根本要因は、多くの場合、コミュニケーション力不足にあります。より一層、素晴らしい会社や職場をつくるために、コミュニケーション力向上に注力することをお奨めします。

沖 晋(略歴
1960年 北海道生れ、九州育ち
1985年 経営コンサルティング会社 日本LCA入社
1994年 日本LCA常務取締役(自動車業界担当)就任
2005年 車買取カーリンク代表取締役社長就任
2011年 カービジネス研究所を設立し、独立
2018年 アビリティブルームコンサルティングを設立し、代表取締役会長就任
現在、アビリティブルームコンサルティング代表取締役会長、カービジネス研究所取締役会長

【仕事に対する想い】
人材の主体性を高め、お客様の喜びを追求し、創意工夫を重ねる組織を育てることが私の喜びです。
尊敬を集める企業は、理念、戦略、商品力、現場力に磨きをかけるとともに、それらの各要素が整合した首尾一貫した組織を作っています。今は、未熟でも、素晴らしい企業づくりに情熱を持っている経営者と社員の皆様の心強いパートナーとして必ずお役に立ちます。

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代表取締役会長 沖 晋 Susumu Oki

1960年北海道生まれの九州育ち。1985年上智大学卒業後、大手経営コンサルタント会社入社。
業種業界問わず、戦略策定支援、人材育成支援等、多岐に亘るテーマで300社以上の企業に対してトップコンサルタントとしての指導実績を持つ。
営業力、商品力双方の強化による業績改善を得意とする。

また、実業進出後は、理念経営による人材育成、組織開発を重視するようになった。理念、戦略、商品力、現場まで首尾一貫した組織づくりによる企業再建も経験豊富。

2004年から車買取販売カーリンク本部の代表者となり実業にも進出。2019年現在100店舗展開中のカービジネス研究所取締役会長も兼務する。

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