経営コラムColumn

経営者や役員を育てる②~使命感や情熱を養う教育方法~

社長と対等に議論できる役員

前号では、次のことをお伝えしました。100年に1度の大転換を迫られている今、対等な議論ができる後継者や役員を育てることが必要。そのためには、「①使命感や情熱、②企画力や情報力、③共感力やコミュニケーション力」を養うことが必要。中でも、①は、生き様や経営理念、達成意欲の高さでリーダーシップをとることが重要。

本稿では、この「使命感や情熱を養う教育方法」についてご紹介します。

規律ある人材の育成

生き様は、立居振舞、言動などに現れる。特に、厳しい現実を直視した時などに、「身勝手や保身。話は立派だが行動が伴っていない。」など、その本性が現れます。

日本人は、昔から論語などで規律を学んでいたが、戦後、その文化伝承が弱くなってきました。また、人格は、親や先生、上司、親友など周囲からの指摘や指導、躾により養われる比重が大きいですが、この面でも弱くなってきています。その結果、大義を見失い、目先の利害得失ばかりを追いかけている残念な人が増えているように思います。

そのような中、志の高い規律ある人材を育成するには、どうしたら良いか?

使命感や情熱を養う方法

明治維新の原動力となった志士を数多く輩出した吉田松陰は「志を立てて以て万事の源と為す」と語った。それを現代風に解説すると「社長に仕えることを目標に志を立てれば、生涯、社長に仕えて終わる。会社に奉仕しようと思う人は、それだけで終わる。だから自分は徳のある人になり、自分を正しくし、会社を正しくし、社会を正しくしようと思う。そのために懸命に生きて何の功績もなく死んでも私は悔いることが無い。」との意味になります。

※参考文献:楠戸義昭「吉田松陰、人を動かす天才の言葉」三笠書房

吉田松陰に倣い、私も自社の役員幹部に「あなたの志は何ですか?どんな会社、どんな部門にしたいのか?その想いを聴かせてください。」と質問しています。また、コンサルティング先の社長や役員幹部にも同様の質問をします。

最初は、「業績改善、目標達成、・・・」などの回答が多いのですが、私は、「それは志ではない。それでは自身も部下も情熱が湧いてこない。いつまで経っても改善しない。もっと、誇りが感じられるワクワクする想いを考えてください。」と質問による指導を繰り返します。

そうすると、「お客様に喜んでもらえ、選んでもらえる店舗にしたい。そのためには、ユーザーだけに留まらず、家族ぐるみのお付き合いを増やしたい。また、感謝の気持ちを持って気遣いできる人材を育てたい。・・・」といった想いを語るようになり、その志に共感する部下が増え、言動も好ましいものに変化します。その結果、期待を超える成果が創出できるようになります。そして、このような成功体験を積んだ役員幹部も自身の使命感や情熱を高く維持するようになります。

リーダーシップを養う具体的教育方法

私がお奨めしたいのは、松下幸之助著「指導者の条件」を役員幹部で読み、意見を交わし、理解を深めるとともに、自己評価と他者評価で課題を合意し、自己革新計画を共有することです。著書を読むと勉強になる人は多いが、それを実践し、自身の規律に磨きをかけている人は少ないと思います。

例えば、「いうべきをいう」という節があります。意見交換しながら理解を深めるともに、評価するのです。「部下には言っているが、上司には言えていない」という自己評価に対して、「部下への指摘もまだ不足している。問題言動には指摘しているが、部下の成長を考えた高いレベルの指摘ができていない。」との他者評価をもらうことで、自身の革新課題がより一層明らかになるのです。これを踏まえて、「Aさんと週1回レビューする。リーダーとして成長できるように期待を示し、改善点を指摘し、厳しく要求する。」など、今後1ヵ月の自己革新計画を表明するのです。そして、1ヵ月後に振返り、自己革新の度合を評価し、継続課題とするか、新たな課題を設定するかを決める。これを毎月、繰り返すのです。

「指導者の条件」は、102節あります。1ヵ月に5~10節を読み、評価し、自己革新計画を見直します。そうすれば、12~24か月かかりますが、役員各人の規律が格段に磨かれ、その結果、組織風土も一層好ましいものになります。ぜひ、取組んでもらいたいと思います。

 

役員に経営理念を感得してもらう

先述の役員教育で各自の規律を磨くとともに、経営理念を感得してもらうための取組も必要です。具体的には、行動指針や信条などの各項目に関して、各自が「共感できているか?確信できているか?その意味を自分自身の実体験をもとに解説できるか?」との問いを立て、意見交換してください。それを繰り返すことで、経営理念の理解が深まるとともに、疑似体験量が増えることで感得することもできます。このような役員が育って初めて、社長と対等な議論ができるようになるのです。

人格の次は、企画力を養

使命感や情熱など人格を養うのに終わりはありません。これは、継続が重要です。しかし、それだけでは、環境変化に適応できる体質強化は実現しません。
戦略の見直し、現場の改善などに不可欠な企画力が必要です。次号は、この企画力や情報力を養う方法をご紹介します。

リーダーシップを養うための推薦図書

  1. 松下幸之助著、「指導者の条件」、PHP研究所
  2. 稲盛和夫著、「心を高める、経営を伸ばす」、PHP研究所
  3. S.スマイルズ著、竹内均訳、「自助論」、三笠書房知的生き方文庫
  4. D・カーネギー著、山口博訳、「人を動かす」、創元社
  5. ジェームズ・C・コリンズ著、山岡洋一訳、「ビジョナリーカンパニー②飛躍の法則」、日経BP社
  6. 楠戸義昭著、「吉田松陰、人を動かす天才の言葉」、三笠書房知的生き方文庫
  7. 由井常彦著、「都鄙問答、経営の道と心」、日経ビジネス人文庫 (石門心学祖、石田梅岩の都鄙問答の解説書)
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代表取締役会長 沖 晋 Susumu Oki

1985年大手経営コンサルタント会社入社後、業種業界問わず、戦略策定支援、人材育成支援等、多岐に亘るテーマで300社以上の企業に対してトップコンサルタントとしての指導実績を持つ。

自動車業界においても、トヨタ、日産系の大手新車ディーラー(カーディーラー)の組織ぐるみの営業力強化PJのリーダーとして目覚ましい活躍を続け、数多くの成功事例を創出。

2004年から自動車販売・買取事業を推進する企業の代表となり実業分野にも進出。

中古車委託販売のビジネスモデルを研究・開発し、車販強化を指向する整備業、販売店、SS等にそのノウハウを提供する委託販売チェーンのカーリンクを全国展開させた。

業界を俯瞰し冷静且つ分析的にクライアント企業の課題を明示する戦略眼は他に類を見ない。

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