部下の心を強くするOJT面談のすすめ
顧客創造には、お客様と良好な信頼関係をつくるスタッフの育成が必要です。今回は、ある店長の人材育成奮闘記をご紹介します。
身勝手、甘えなど心の姿勢を正す
「覇気がない」、「何を考えてるのかわからない」店長からよく伺う部下への嘆きです。若手は指示をしても聞かない、苦手な仕事だとすぐ逃げる者がいてなかなか成長しない。ベテランにも凝り固まった考えを変えず店長の指導に反発する。彼らをうまく動機づけできずに悩む店長は多くいます。しかし、部下の心の姿勢を正すことができれば、自律型人材を育成できます。
店長の悩み
S店長は、新任店長として組織改善に意気込んでいましたが、営業スタッフは現状に満足し、成長意欲が感じられません。目標達成できない月が多く、顧客満足度も低い。部長から人材育成ができていないと指摘を受け、部下一人ひとりの課題に対して指導しましたが、「わかりました」と返事するものの行動が変わらないスタッフが大半でした。
ある日、部長に部下育成に悩んでいることを相談すると、人材育成の実践的な研修を勧められ、受講することにしました。
人材育成実践研修
研修では、「相互理解で部下との信頼関係を築く」ことが大切と学び、そのための面談シナリオ設計の指導を受けました。S店長は悩んでいるAさんとの面談シナリオを書こうとしましたが一向に進みません。Aさんを全くわかっていなかったのです。
講師から、「部下の事を知らない限り育成はできませんね。」と指摘され、いつも目先の仕事に追われ、Aさんとの会話が少なく、関心を持っていなかったことに気づきました。「まず、Aさんをよく知ることから始めましょう」と言われ、聴く技術を教わりました。
相互理解で信頼関係をつくる
Aさんは面談に呼ばれても下を向いたままで身構え、聞く姿勢ではありませんでした。S店長は、「今日はAさんの話を色々と聞かせてもらいたい」と率直に切り出し、近況を聞き始めました。Aさんは予想外の話に戸惑いつつも、ぽつりぽつりと話し始め、S店長がうなずいたり、相槌を打って聞いたことで、徐々に打ち解けた雰囲気になりました。
S店長は、16年前にこの会社を選んだエピソードやメカニックから営業職に変わった時の苦労話や失敗談をしました。するとAさんは、「自分は大学の恩師が営業職に向いてるって言ってくれたんです。それに父親がうちの会社で車を買っていて」と、地元や学生の頃の話をしてくれたのです。地元が近く、弟の野球コーチがS店長の後輩で家族ぐるみの付き合いだと分かり、大いに盛り上がりました。
会話が弾んだところでS店長はもっとAさんの話を聞きたいと伝え、来週までに書いて欲しいと1枚のレポート用紙を渡しました。
S店長は、Aさんが心を開いて明るく話してくれたことを嬉しく思った半面、今までの話しづらい対応に申し訳ない気持ちになりました。
翌週S店長は、Aさんのレポートを基に面談シナリオを作成し始めました。Aさんがアドバイスや指示を素直に受け入れず、逃げるのはなぜか。レポートには過去に努力して乗り越えた経験として、よさこいソーラン部で苦労してファイナルに出場したことが書かれていました。この経験があるのに逃げるのはなぜか。また、不幸と感じた体験には、高校時代サッカー部で仲間とのいざこざ、とありました。いったい何があったのか。ここに逃避する原因があるのではないか。そう考え、Aさんを深く知る質問を整理しました。
2週間後の面談は、忘れられないものになりました。
少し雑談をした後、S店長は、「以前、仕事にやりがいを感じられないって聞いたけど、よさこいソーラン部ではどんなやりがいを感じてたの?」と問いかけました。すると、15人の仲間たちとファイナルステージ出場を目指して努力したことを語ってくれました。「自分がスノボの怪我で練習できなくなったとき、友人達の本気のサポートで復帰できたんです。それからは、どうしたら仲間に貢献できるかを考え、素直な気持ちで練習にのめりこみ、自分のパフォーマンスを高めることができたんです。チームがどんどん良くなってファイナル出場が決まった時の仲間からの“ありがとう”が本当に嬉しかった」と話してくれました。
それを受け、「Aさんが生きがいを感じるのは、目標に向かって仲間への“貢献”を真剣に考え、懸命に努力したこと、その結果として、仲間から“感謝”がもらえたことなんだね」と話しました。Aさんは少し紅潮した顔つきになり、その時の感情を思い起こしているようでした。
「逆に、不幸に感じたことがサッカー部での仲間とのいざこざとあるけど、これはどんなことなの」との質問にAさんは黙りこみました。
そして思いつめたような顔で、「怖くなったんです。監督や先輩から指導されても上達しなくて、監督だけでなく仲間も自分を責めるようになって、自分は何をやってもダメと指導を素直に聞かずに逃げるようになったんです」と本音を打ち明けてくれました。
S店長は、静かにうなずきながら、「よさこいでの自分と、サッカー部での自分の違いは何だろうか?」と、さらに考えを深めるよう促しました。
しばらく沈黙が続いた後、「今の自分は高校時代と一緒ですね。実は、前の店長から疎遠客訪問を指示され、冷たい対応をされショックを受けました。さらに、店長からどうしてできないんだと叱られたんです。それ以来、お客様への訪問が怖くなり、指示から逃げるようになったんです」と思いつめたAさんの目には涙が浮かんでいました。
S店長は、「でも、大学時代に充実していたのは、仲間のために何ができるかを真剣に考えたことだよね。だから、今回もお客様のために何ができるか考えよう。まずは、お客様の困っていることを聞き出して役に立とう。そして、お客様から“ありがとう”をもらおう。そうすれば、Aさんは凄いパフォーマンスを発揮できると思うよ」と励ましました。
そして、「最初は、引継客にご挨拶しながら、お困りごとや期待していることを聞き出していこう。僕もできる限りのサポートをするよ」と話しました。Aさんは、吹っ切れたようにどこか自信をもった顔つきでうなずきました。
スタッフの成長
面談後、Aさんは革新テーマとして「お客様から“ありがとう”をもらうために、逃げずに真剣に考え、行動する」を宣言し、今まで避けてきた疎遠客に積極的に接触しようと決意しました。S店長は、その決意を周囲と共有し、行動計画や接触シナリオを一緒に考え、賞賛や叱責を実践しました。周囲もAさんへの声掛けや協力が増えていきました。
そんな中、今月の目標達成に最後の1台となったのがAさんの案件。この時はいつも無関心だった先輩も協力し、提案シナリオを一緒に考えてくれました。そのおかげで、疎遠だったお客様に粘り強く対応し受注。しかも新規の保険まで獲得し、目標達成の立役者になったのです。
Aさんは、「お客様やみんなに“ありがとう”と言ってもらえ、店舗目標にも貢献できて、本当にうれしい。仕事が楽しくなってきました」と明るく話してくれました。
以前はお客様との信頼関係が希薄で、トラブルやクレームが頻発していたAさんですが、接触目的を考え、店長や先輩によく相談しながら活動した結果、仲の良いお客様が増え、紹介による受注台数も増加。周囲にも良い刺激を与えるようになりました。
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