経営コラムColumn

部下の成長を促進し、モチベーションを高める~才能開花型マネージャー育成のすすめ~

1. 評価者であるマネージャーの現状と課題

前号では、「人材が見違えるように育つ才能開花型の人事評価制度」をご紹介しました。この人事評価表は納得感が高く、成長を促進する仕組みですが、マネージャーの育成を疎かにすると台無しになります。実際に、評価者訓練をしてみると、次のような問題が明らかになります。

  1. マネージャーの適性の問題:部下から人間性に不信感を持たれている。
  2. 部下の業務管理の問題:部下の仕事ぶりを見ていない。
  3. 部下との信頼関係の問題:部下の人生経験や価値観、夢や関心事を知らない。信頼関係が弱い。
  4. 評価力(人を見る目)の問題:スキル、人間性、生活習慣、価値観など確認してみないと評価できない項目がある。また、評価基準を正しく理解していないために評価が甘過ぎるか、または厳し過ぎる。また、具体性や客観性に欠け、評価の根拠が乏しい。
  5. フィードバック力の問題:ダメ出しばかりで部下のモチベーションを下げている。ほめるだけで成長課題を明示しないので意欲的な部下が辞めていく。
  6. 育成力の問題:育成課題が明示できていないか、効果的な育成方法が分からない。

上記①~③の状態では、評価者の適性欠如や心得違いから組織への不信感が強く、人事評価制度が形骸化し、機能しません。
また、④~⑤の状態では、評価者の評価力やフィードバック力の不足により納得感が弱く、モチベーションが低下します。
さらに、⑥の状態では、部下が育ちません。
そこで、今号では、「評価者の適正と心得」「評価力とフィードバック力を高める」「部下育成力を高める」についてご紹介します。

2. マネージャーを育成する

(1)適性のあるマネージャーを選び、下記の心得を教育する

  1. 人間性の高い人材を登用する
    人事評価結果が仮に的確だとしても信頼関係の無いマネージャーからのフィードバックを部下は素直に受けとめられません。だからこそ、人間性(素直さ、誠実さ、冷静さ、相互理解、向上心)に問題がある評価者は降格し、適性のある人材を評価者に登用しましょう。
  2. 仕事ぶりを見る(心得その一)
    月1回は、部下と面談し、達成度や手応え、課題、喜びや悩みを確認する。また、時々、営業同行や現場に足を運ぶ等して仕事ぶりを確認する。
  3. 部下との信頼関係をつくる(心得その二)
    マネージャーは、部下との信頼関係を築くことが必要である。そのために、部下の人生経験(出身地、家庭環境、学校、熱中したスポーツや趣味など)、プライベートの過ごし方、将来の夢などを、配属後の早い段階で聴き、価値観を理解する。共感できる点を見つけて、その気持ちを伝え、相互理解を深める。

(2)評価力とフィードバック力を高める

  1. 人を見る目を養い、的確かつ厳格に評価する

    才能開花型人事評価項目を活用し、スキルだけでなく、人間性や習慣(社会性)、商人道の精神など人を見る目を養いましょう。また、客観的な評価基準を正しく理解し、具体的事実をもとに的確かつ厳格に評価しましょう。納得感を高めるだけでなく、成長を促すための課題も明示しましょう。

    例えば、「誠実さ」に関して「自己中心的な言動も少しあるが最近は減っています。お客様への気遣いはできるが同僚には不足しているので意識を高めてください。」との評価根拠を課長が記載します。その妥当性を部長に検証してもらい合意できるまで見直しましょう。
    もし、課長の評価根拠が妥当だとしても評価基準の理解が浅いと、3点評価にする人が2~3割います。改善が見られるので評価してあげたい気持ちは分かりますが、正しくは、2点評価です。
    このような訓練を課長1人あたり部下2~3人について全15項目を評価し、部長との評価差異を明確にし、擦り合わせることで評価力を高めましょう。
    その時、下記の評価傾向(陥りやすい過ち)を自覚し、適正に評価できるように訓練することが必要です。

  2. 1.中心化傾向: 評価点が中心点に集中する。多くは観察不足で根拠が示せない。
    2.論理的錯誤: 断片的な事実で自分勝手に拡大解釈する。客観的な観察不足。
    3.ハロー効果: 一つの出来事に対する評価が他の評価にも影響する。
    4.期末誤差 : 評価時期に近い出来事を重視して評価する。誤差が生じやすい。
    5.寛大化傾向: 評価点が甘くなる。多くは嫌われたくないため厳格さに欠ける。
  3. フィードバック訓練でモチベーションを高める
    評価の妥当性を伝えるだけでなく、モチベーションを高めるために、仕事ぶりや成長を認めるフィードバックシナリオを考えてもらいます。また、話し方が拙い評価者には、ロープレ訓練もしましょう。

(3)部下育成力を高める
課題別の指導実践事例を学び、部下育成力を高めましょう。指導実践事例を一部ご紹介します。

  1. 月1~2回遅刻する社員
  2. ・就寝時間、起床時間、生活習慣を確認し、遅刻の理由(介護、子育て、ゲーム、飲酒、友達との遊びなど)を捉え、生活習慣を改める、各種サービス利用等、本質的な解決策を一緒に考える。
    ・Aさんは、ゲームが好きで興が乗ると時々明け方まで続けてしまい、遅刻することがありました。「ゲームしても良いが、社会人として皆に迷惑をかけてはいけないので、ゲームは夜ではなく、早起きしてやってはどうか」と上司からの助言を受けて生活習慣を改め遅刻が一切なくなりました。
  3. デスク周りの整理整頓ができない社員
  4. ・退社前に整理整頓する時間を確保させ、自立するまで上司や同僚が手伝う。

    ・Bさんは「整理整頓するまでは退社しない」ことを職場で約束し、上司や先輩から基本(捨てるべき書類の判断、ファイリング方法、道具などの収納方法など)を学ぶことで、1ヶ月後には習慣化することができました。

  5. 身嗜みがだらしない社員
  6. ・毎朝、職場で互いに身嗜みチェックする時間を確保する。また、上記①同様に生活習慣を確認し、改善してもらう。
    ・Cさんは、シャツのはみ出し、寝ぐせ、夏場の汗臭さなど、同僚からの指摘や助言を素直に受けとめて、自分の体形に合った服を選び直し、朝シャワーを習慣にすることで、清潔感のある身嗜みができるようになりました。
  7. 声が小さく笑顔も少なく元気のない社員
  8. ・幸せな人生を獲得するため改善することを決意してもらい、できるまで都度指摘しやり直してもらう環境を整える。

    ・Dさんは、笑顔が少なく、声も小さかったが、お客様に可愛がってもらえるスタッフになるために「笑顔で元気な声で挨拶する」「相手の関心事を知り寄添う」ことを上司との面談で決意しました。その後、上司や同僚から「口角下がっているよ」「話すとき目を見てないよ」「目が笑ってないよ」など指摘と助言を毎日受けると、1ヵ月後には、お客様から「最近、明るくなったね」と褒められるようになってきました。半年後には、人間関係に自信がついて、積極性も出てきました。

  9. 素直さに欠ける社員
  10. ・「でも」「しかし」という口癖を禁句にすることを合意し、「できない理由」ではなく、「どうやったらできるか」を考えて相談するように思考習慣を変えることを合意し、都度指導する。
    ・Eさんは、上司のフィードバック面談で素直さに欠けていることを自覚し、何としても変わりたいと宣言してくれました。その後、ネガティブな口癖が出た際は、上司や同僚から指摘を受けながらポジティブな言動を習慣化することができました。1年後には、職場でも好ましいリーダーシップを発揮する人材に変貌しました。
  11. 嘘をつき他責にする社員
  12. ・他責姿勢では誰からも信頼されず見捨てられる現実を直視させる。その上、改善することを決意してもらい周囲から都度指摘する環境を整える。
    ・Fさんは、フィードバック面談後、「嘘をつき他責にする姿勢では、誰からも信頼されず孤立する」ことに危機感を持ち、不誠実な姿勢を同僚に謝罪しました。その後、不誠実な姿勢を都度、同僚から指摘してもらうことで、半年後には、同僚全員から信頼を得られるようになりました。
  13. すぐ感情的になる社員
  14. ・感情的になりそうな時は、まず、誤解(解消する)、自責(謝る)、他責(筋違いを気づかせる)のいずれなのかを冷静に考える習慣を身につけることを合意し、都度指摘する。
    ・Gさんは、フィードバック面談後、「感情的になり周囲に不快感を与えている」ことを自覚し、改めることを皆に宣言しました。その後、時々、感情的になることはあったが、すぐに我に戻り、「ごめんなさい。また感情的になりました。」と冷静になり、誤解、自責、他責の何れなのかを同僚と一緒に考え、適切な対処をするようになりました。半年後には、感情的になることは一切なく、常に柔和な姿勢で冷静に対処できるようになりました。

3. 才能開花型能力評価トライアル研修のすすめ

教育効果が期待できる適切な人事評価表がある会社は、評価者訓練、部下育成力向上研修をお勧めします。
人事評価表はあるが見直しが必要と感じている会社、あるいは、そもそも人事評価表がない会社には、私どもの才能開花型能力評価トライアル研修をお勧めします。トライアルすることで、自社でも活用したい評価項目と評価基準が明確になります。また、評価者の適性が判定でき、評価者の心得も学べます。

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代表取締役会長 沖 晋 Susumu Oki

1985年大手経営コンサルタント会社入社後、業種業界問わず、戦略策定支援、人材育成支援等、多岐に亘るテーマで300社以上の企業に対してトップコンサルタントとしての指導実績を持つ。

自動車業界においても、トヨタ、日産系の大手新車ディーラー(カーディーラー)の組織ぐるみの営業力強化PJのリーダーとして目覚ましい活躍を続け、数多くの成功事例を創出。

2004年から自動車販売・買取事業を推進する企業の代表となり実業分野にも進出。

中古車委託販売のビジネスモデルを研究・開発し、車販強化を指向する整備業、販売店、SS等にそのノウハウを提供する委託販売チェーンのカーリンクを全国展開させた。

業界を俯瞰し冷静且つ分析的にクライアント企業の課題を明示する戦略眼は他に類を見ない。

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