後継者や役員を育てる④ ~企画力を養う~
経営者に必要な3つの能力
経営者は、情熱、企画力、コミュニケーション力を鍛える必要があります。前回は、企画力の重要性について次のように解説しました。
「問題とは、理想像と現状のギャップ」のことを言います。従って、理想像を描いていない、あるいは、現状認識ができていない人は問題意識を持っていないと言えます。問題意識が高いとは、目標と現状のギャップを鮮明に認識し、そのギャップ解消に強い意志を持っている状態を言います。「課題とは目標と現状のギャップを解消する取組み」のことを言います。このギャップを効果的に解消できるストーリーを描く力を企画力と言います。
本稿では、企画力を高める具体的方法をご紹介します。
企画力の要件
- 意義を見出せるゴールを明示する
- ゴールを達成するストーリーを描く
- 社員が一丸となりゴールを達成するよう情熱を傾ける
- 危険を予知し、事前に除去する
- クリティカルパスを見抜き、適切なタイミングで関与する
- 適度なストレッチで人材を育成する
意義を見出せるゴールを明示する
業績は、顧客関係の結果でしかない。顧客が増え、関係が強くなれば、業績は改善する。そのためには、商品力を強化し、人材能力を高めることが必要です。
「どんな会社にしたいですか?」と質問すると、業績目標はあるが、体質強化目標(理念、顧客関係、商品力、人材能力など)を描けていない経営者が多くいます。これを描かなければ、いつまで経っても業績は改善できません。
新たな戦略や施策は、業績や効率など会社都合が先行しがちだが、本質的意義(お客様や社員、職場など関係者のメリットなど)を見出し、与えなければ、人(社員、お客様、協力業者)は動きません。
「業績給で報いているのに、社員の一部しか頑張ってくれない」との悩みを持つ経営者は、意義を与えるゴールを描けていない傾向があります。人は、パンのみにて生くるものにあらず。人は物質的な満足だけを目的として生きるものではなく、精神的なよりどころが必要です。「商品力を強化し、自分の心と技を磨き、お客様に喜んでもらえる仕事が楽しい。」という意義を社員に与えるためにも、体質強化目標が必要なのです。
実際、意義を与えるゴールを明示できている会社は、組織が活性化し、人材が育ち、素晴らしい業績を上げています。
意義を与えるゴールは、現状と課題、目的と背景、目標で構成します。ゴールが適切でないと、未達や納期遅れ、過重労働や疲弊などが生じます。ゴールを適切なものにするには、現状と課題、目的と背景、目標を的確で整合性のあるものにする必要があります。
そのためには、論理的思考力が必要です。思考力を鍛えるには、ロジックツリーで全体像から詳細までを鮮明に描き、議論を重ねることです。問題の本質を明確にし、そこに注力します。
また、自身と部下がワクワクできる志(目的や意義)を明示します。量、質、生産性など左脳的要素だけでなく、マインドや意義など右脳的要素も重要です。このような右脳プラスの左脳思考をハイ・コンセプトと言い、6つの感性(デザイン、物語、調和、共感、遊び、生きがい)を磨く必要があります。※参考文献は、推薦図書①を参照ください。
ゴールを達成するストーリーを描く
意義を見出せるゴールイメージを明示できたら、次は、ゴール達成ストーリーを描きだします。顧客関係改善、商品力強化、人材育成などの課題を物語として展開するのです。
例えば、「顧客関係を改善」するならば、個々人で課題が異なります。そのような場合は、次のように、個人毎に期待事項を明示し、適切な取組みを求めることが重要です。
- 会話が事務的な営業スタッフやエンジニアは、お客様の趣味や関心事に寄り添い、共通の話題を増やす。笑顔で会話し、親近感を高める。そのために、毎朝、同僚と雑談を交わし、訓練する。
- お客様本人とは仲が良いが、お客様の家族とは疎遠な営業スタッフは、お客様の家族にも関心を持ち、接点を増やし、家族ぐるみの付合いができるお客様を増やす。
- お客様やその家族とも仲は良いが、紹介が少ない営業スタッフは、仕事や人生の夢や悩みに関心を示し、自分の人脈や情報を活用し、「人手不足で悩む会社に、転職を考えている人材を紹介する」、「お気に入りの飲食店や美容室、治療院を紹介する」などお役に立てる情報や人物を紹介し、車関連以外のことでも喜んでもらう。そして、車検やオイル交換でも良いので知人を紹介してもらう。
社員が一丸となりゴールを達成するよう情熱を傾ける
社員が一丸となるためには、自分のことしか考えていない人には、その姿勢を改め、「部門の問題点は何で、それを改善するには、どうしたら良いか」を考えるよう求め、議論を重ねます。そして、部門を良くするためには、上司や先輩にも遠慮なく、指摘し、助言するよう求めるとともに、部下や後輩からの指摘や助言にも素直に耳を傾ける姿勢を養うことが重要です。
勘違いしている人がいますが、情熱を傾けるというのは、「声を荒げて感情的に怒る」ことではありません。現状をあるがままに認め、ポジティブ思考で夢を語る。つまり、出来ていることを称賛し、出来ていないことは課題として期待を示すことが大切です。また、月に1回だけでなく、相手のレベルに応じて毎日、週3回、毎週、月2回など、適切な頻度で進捗を管理することも重要です。情熱の度合は、期待の強さと関与の頻度と時間で測るものだと思います。
また、指導スタイルも、「指示と指摘」だけではなく、「質問と助言」、「模範や代行」、「観察と助言」など適切な関与方法の選択も重要です。
組織が劇的に改善する物語マネジメントのすすめ
企画力の要件①~③についてご紹介しました。④~⑥は、別の機会にご紹介したいと思います。手順に従い、自身の想いを込めた計画書を作成すれば、課題や関与方法がより的確で具体的なものになってきます。この取組みにより、1年以上低迷していた組織がわずか1~2ヵ月で劇的に改善し、飛躍する事例が続出しています。
その鍵は、次の3点です。
- ハイ・コンセプトなゴールイメージを明示する
- 個人毎に的確なメッセージを発信し、課題と施策を落し込む
- 会社を良くするために遠慮なく問題指摘や助言する組織風土を醸成する
皆様もマネジメントをストーリー展開することに挑戦してみませんか。
推薦図書
- ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代、ダニエル・ピンク著、大前研一訳、三笠書房
- 夢とビジョンを語る技術、野口吉昭著、かんき書房
- フィードバック入門、中原淳、PHPビジネス新書