自己実現と人材育成の極意シリーズ「人間力を磨き、人生を楽しむ」2024年3月1日出版記念
第2章:人間力を養う組織の条件
組織には、人間力を養う組織と蝕む組織の2種類があります。ここでは、それぞれの組織文化の特徴と違いについてお話しします。
人間力を養う組織文化
人間力を養う組織には、耳の痛い話でも仲間が相互に指摘し受け入れる文化があります。
私たちは、家庭や学校、会社で、素直さ、誠実さ、向上心の大切さを学んできました。しかし、その学びのほとんどは、一方的かつ抽象的に大切さを説かれるだけです。自分の言動や立ち居振る舞いは好ましいのか、問題があるならばどこがなぜいけないのか、改めるにはどうすればいいのかについて具体的かつ的確な指摘を受け、課題を正しく自覚する機会は、多くありません。その結果、多くの人は人間力に自信がないか、逆に、自分勝手を自覚しないまま、人間力があると過信している人もいます。
人間力を高めるには、周囲からの的確な指摘とそれを受け入れる素直さが欠かせません。会社であれば、上司が部下の行動を良く見て、誠実さ、素直さ、向上心に欠ける行動があれば指摘し、自覚を促すことが大切です。いわば人間力のOJTです。会社で人材を育てる場合、人間力のOJTは欠かせません。
しかし、耳の痛い指摘は、するほうも、受け入れるほうも難しいものです。上司の中には、嫌われたくないために、問題がある部下にも耳の痛い指摘ができない人がいます。また、上司が部下の成長を願い耳の痛い指摘をしてくれているにもかかわらず、反発する人もいます。厳しい指摘は、上司と部下の間に信頼関係がなければできません。
相手の成長を願い耳の痛い指摘をしてくれる人が身近にいれば、指摘を謙虚に受け入れ課題を自覚し、考え方や行動習慣を改められます。しかし、そのような人が周囲にいない場合は、人間力はなかなか高められません。少々厳しい指摘も、相手のためになると思えば誠実に指摘する。指摘されたら、その言葉を謙虚に受け入れ自らを省みる。人間力を高める組織にはこのような文化があるものです。
また、対等な人間関係も必要です。私が入社した経営コンサルタント会社では、相手が上司であれ部下であれ、互いに「さん」づけで呼んでいました。多くの会社を拝見してきましたが、今でも、上司を「部長」などの役職で呼び、部下を呼び捨てにする会社が多いように思います。これらの会社では、序列意識や支配従属関係が強く、本来の信頼関係が育まれません。上司の指示が絶対視され、正当な発言をする部下に対しても「あなたは素直さに欠ける」という指摘が悪用されるリスクを感じます。このような組織は、「もし、失敗したらあなたは、どう責任をとるのか」などと、相手を非難し、責めるような不毛な議論が中心となり、衰退していきます。
私が新入社員当時の社長は「上司の指示が納得できなければ、遠慮せず議論しなさい。もし、課長の話に納得できなければ、部長、役員、最後は社長にも相談し議論しなさい。それでも納得できなければ、将来を託すほどの会社ではないと見切って辞めたほうが良い」と常々、話していたので、私は、愚直に実践しました。上司の半数は、納得させてくれるか、納得できるよう指示を修正してくれましたが、残る半数は、答えに窮することがあり、実際、社長まで相談にいくことが何度かありました。このような環境にいると、上下関係なく、建設的な議論ができます。ただし、そのためには、賢明で謙虚なリーダーたちが必要不可欠です。
日本社会には、かつては、家訓を持つ武家や商家がありました。社会全体を見ても、儒教や武士道、商人の間では商人道が説かれており、守るべき教えや戒め、行動規範が社会に多く存在しました。ところが、これらの行動規範は戦後どんどん姿を消していきました。もちろん、行動規範がすべて是であるとは言いません。しかし、現在、人間はどうあるべきかと悩む人や、人間力の低い人がかえって増えている原因の1つはこの行動規範の減少にあると思います。
人間力を高めるには、経営理念や家訓などで行動規範、すなわち守るべき価値観を明示し、自分を含め組織の人間の行動を変えていくよう努めなければいけません。特に経営陣は行動規範を率先垂範する必要があります。
人間関係が対等で、信頼関係が強く、好ましい価値観を共有し、建設的な議論ができる、そんな組織文化を醸成するために、本書が参考になれば幸いです。
人間力を蝕む組織文化
人間力を蝕む組織には、人間関係が対等でなく、支配従属関係が強いという特徴があります。上司やお客様には誠実で素直に接する一方、部下や立場の弱い業者には傲慢で横柄に接するなど、相手により態度を変える人が多くいて、ハラスメントが横行しがちです。個々の人間力はどんどん蝕まれ、やがて組織全体が退廃していきます。
〔中略〕
人間力を養う健全な組織を作る
ただの一社員であるならば、人間力を蝕む組織からは離れるのが最善の方法です。しかし、もしあなたが経営陣であるならば、その組織にとどまり、組織文化を変えなければいけません。なぜなら、あなたは組織と社会に対し責任を負っているからです。
人間も組織も社会に受け入れられる存在でなければいけません。そのためには、組織全体で社員の人間力を高める必要があります。
〔中略〕
社員の人間力を高める方法は2つあります。1つは、経営理念を見直すことです。特に社員が共有すべき価値観を明示する信条や行動指針などに人間力の要素を盛り込みましょう。
もう1つは、人間力のある人材を採用、教育、評価することです。そのために、採用面接と人事評価表の評価基準にも人間力の要素を盛り込みましょう。そして上司評価だけでなく、本人評価とのギャップも明確にし、人間力課題を合意できるまでフィードバックしましょう。
人間力に問題がある社員には指導し、行動を改めてもらいましょう。繰り返し指導しても改善しないならば、退職勧奨も必要だと思います。なぜなら、この問題を放置すると、ゆくゆくは自社や取引先に大きな迷惑がかかる可能性があるからです。
とはいえ会社が、人間力を重視した理念経営やマネジメントに変われば、人間力が著しく低い社員は居心地が悪くなり自分から離職を考えるようになると思います。
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以上、第2章の抜粋です。
第6章 利用者の声
人間力評価を実際に社内教育や人事評価に利用しているお客様の声をご紹介します。
SAITO ASSOCIATES さいとう税理士法人グループ様の声
まずは、SAITO ASSOCIATES(サイトウアソシエイツ)さいとう税理士法人グループ様のお話です。2022年に導入いただきました人間力重視の人事評価制度について、グループ代表の齊藤司享様、株式会社サンガアソシエイツ代表取締役の齊藤雅彦様に話を伺いました。
■SAITO ASSOCIATES さいとう税理士法人グループ
本社所在地 東京都大田区南雪谷
1.齊藤雅彦代表取締役のお話
〈人材の成長について〉
2022年に人間力を重視した人事評価制度を導入し、現在2年目に入っています。導入前は、マネージャーは品質や納期の業務管理面を中心に部下を評価していました。しかし人間力評価を始めたところ、上司の部下を見る目や寄り添う姿勢が大きく変化し、育成力も高まっています。結果、上司と部下の信頼関係も厚くなり、上司と部下ともに成長スピードが上がりました。
たとえば、50代後半の部長のAさんは、面倒見がよく指示は丁寧だけれども、その後は部下任せでフォローが弱かったことを自覚しました。ある程度経験を積んでいる部下が相手であればいいのですが、経験も業務理解も浅い部下相手には、この指導は適していません。結果、いったん任せたものを自分でまたやり直したり、完成度が低い状態で終わらせることもしばしばありました。しかし、評価制度導入後は、人を見る目も養われ、最後まできめ細かくフォローし、指導できるようになりました。結果、若い人材の成長スピードも速くなっています。
30代の課長のBさんは、スパルタ教育を行う傾向がありました。指導内容は仕事の品質や納期管理が中心で、態度は少々怒りっぽく、厳しくもありました。しかし評価制度導入後は、厳しい指導をしつつもしっかりフォローするようになりました。マインド面も指導できるようになった結果、部下の自己肯定感も高まってきました。部下もやらされ感なく、前向きでポジティブ思考ができる人材が育ってきています。
また、多くの部門で、部下が上司に相談しやすい雰囲気ができてきました。上司と部下の間で優先順位の認識違いが起きることもなくなり、レベルの低いやり直しも減っています。上司も部下を指導するために自ら襟を正し、人間力を上げるべく努めるようになったため、どんどん成長してきていると感じます。
〈組織風土の改善〉
導入前から素直さや誠実さを重視して採用していたため、この2つの項目は全体的に高い点数が取れていました。しかし、相互理解は、かなり弱かったと思います。私が入社した2017年頃は、同じ空間で仕事はしているもののお互いにあまり関心がなく、人間関係が希薄で、緊張感が漂っていました。皆、自分の顧客対応に集中していて、若手のフォローは少しするものの、ある程度の経験者にはフォローや指導はほぼありませんでした。
しかし、人事評価制度導入後は、社員の関係が良好になり、明るく、協調的な雰囲気に変化しました。部門の一体感、協力関係、情報共有レベルも高まっています。評価制度を導入したタイミングで入社した税理士のCさんは、弊社で4社目というキャリアの持ち主なのですが、弊社は人間関係が良く、一番居心地が良いと言ってくれています。
規律正しさも向上し、日報提出の遅滞率も3割から1割未満に減りました。また、整理整頓が苦手で机上が書類で溢れていた社員のDさんは、上司や同僚の協力を得て整理整頓の習慣が身につき、今では、きれいに片づけができるようになりました。机の上のモノを要不要で分けさせ、上司がそれをチェックすることを何度も繰り返した結果、整理整頓の習慣がついてきています。
人間力評価の項目と基準が明確で、はっきりとしたメルクマールがあるところが良いです。明確だからこそ、今まで見えていなかった課題がわかるようになります。本人も課題を自覚せざるを得ないため、育成面でも効果的だと思います。数値化できるから、年2回の評価で上司と部下が「2点を3点に、3点を4点にするために何をするか」をしっかり話し合うことで、相互理解が深まり、信頼関係が高まっているのだと思います。
2.齊藤司享代表のお話
評価制度導入前は、上司の部下を見る目はどうしても感覚的なものでした。しかし、導入後は評価の項目と基準が明確になり、フィードバック内容への納得感が高まったと思います。代表取締役が話したB課長の事例はその典型です。以前は「なぜできないんだ」と感情的になることもありましたが、評価区分と基準が明確になった今は、どこから改善すべきかが具体的かつ的確になり、1つずつ取り組んでいけるようになりました。
また、人事評価結果を能力給と考え、8項目の平均点がいくつになったら能力給をいくらアップするというように、給与に反映させる仕組みも導入しました。モチベーションが上がり、皆、真剣かつ前向きに人間力向上に取り組んでいます。
代表取締役の言葉に、上司が部下を指導することで自らも襟を正し成長するという話がありましたが、それは私たち経営者も同じです。私や代表取締役もまた変化、成長しているように感じています。
株式会社トヨタレンタリース新札幌様の声
続いて、株式会社トヨタレンタリース新札幌様のお話を紹介します。同社では、マネージャー研修であるビジョン・リーダーシップ訓練を2021年に導入していただきました。ビジョン・リーダーシップ訓練には、人間力評価も含まれています。導入後3年目を迎えた変化について、代表取締役社長の西川友晴様と営業部長の多和亮様にお話を伺いました。
■株式会社トヨタレンタリース新札幌
本社所在地 札幌市豊平区平岸
1.西川代表取締役社長のお話
私は3年前にグループ企業から転籍し、代表取締役社長に就任しました。就任当初から「お客様満足至上と従業員の幸福を追求することにより会社の繁栄を図る」という企業理念を実現するには、マネージャーの働き方や部下への関わり方にまだまだ改善の余地があると感じていました。そこで導入したのが、ビジョン・リーダーシップ訓練です。
導入前は、マネージャーは目の前にある仕事に追われ、ルーティンワークをこなし、オペレーションを回すだけで、部門方針書の内容も薄いものでした。しかし、現在では、今よりもっと良いビジネス、良いサービスに変えよう、そのためにはどのような人材育成が必要かなど、担当部門の将来のビジョンをイメージし、それに沿って仕事をするように変わってきました。先見力、つまり危険やリスクを予知し事前に対応する力が高まったため部門方針書もより具体的になり、目標達成の妨げとなりそうなリスクやその対応まで考えられるようになっています。
レンタル部の課長のAさんは、約20名の部下と複数店舗を担当しています。管理する店舗や部下が多いため、彼1人に大きな負荷がかかっていました。しかし、ビジョン・リーダーシップ訓練導入後は、先見力と質問型の寄り添う指導を意識するようになり、部下である係長や主任の主体性も高まり、より多くの仕事を任せられるまでになりました。
A課長の部下はシフトによっては、いつもと違う店舗に応援に行くことがあります。以前は慣れていない店舗に入ることに対し部下たちは消極的でした。しかし、A課長が生き様インタビューを行い部下との信頼関係を構築してからは、慣れない店舗に入ることに対しても前向きな姿勢を見せるようになりました。おかげで柔軟なシフト調整ができるようになり、さらに同僚間の信頼関係や協力関係も高まりました。
2023年度は新型コロナウイルスによる行動規制が解除され、A課長の担当エリアは過去最高の利用台数を更新しています。一方で人員は不足気味でスタッフ一同多忙ではありますが、皆前向きで明るく元気に仕事に向き合っていて、組織としての主体性が高まっていることを感じています。
A課長のもとで成長した人材は、それぞれ、素直さ、誠実さ、ポジティブ思考、主体性、思考力が高まってきていると感じます。私が社長に就任した当時、レンタル部のCS順位は全国63社中の61位、地域7社中7位と低迷していましたが、年を追うごとに向上しています。直近では全国27位、地域2位に浮上しました。これも、社員たちが人間力を高め、自分自身を成長させたおかげだと思います。
2.多和営業部長のお話
リース営業部では、課長6名がビジョン・リーダーシップ訓練を、営業スタッフ26名全員が生き様インタビュー研修を受講しました。おかげで課長と部下の信頼関係が強くなり、チームの一体感も高まりました。さらに部下の成長スピードも速くなり、特にポジティブ思考や主体性が高い人材が増えたと思います。
40代前半の課長のBさんは、以前からそつなく部門を運営していました。しかし、ビジョン・リーダーシップ訓練を受けてみると、部下の仕事や人間性が見えているようで見えていないことに、本人も私も気づかされました。おそらくB課長は、貪欲さや問題意識が浅かったのだと思います。
そこでB課長は、見えていなかったならば、人間力や仕事力の評価基準をもとに見えるようにすればいいと気持ちを切り替えました。するとさまざまな課題が見えてきて、その解決方法も自ずとわかってきました。以前は部下に仕事が完了したか確認するだけでしたが、受講後は指示した仕事の目的や手法を伝え、部下の感情や仕事に対する成功イメージを持てているかなども把握し、助言するようになりました。部下とのコミュニケーションも以前よりはるかに密になっています。
B課長の変化は部下にも大きな影響を与えました。課長が変わればチーム全体が変わると実感しています。
B課長の部下である入社3年目の営業スタッフCさんは他部門から異動してきた人材です。異動後はミスが多く、指摘、指導すると「わかりました」と素直に返事をするのですが、それでもまたミスを繰り返します。そこで、指摘、指導する都度どこまでわかっているかを確認するようにしました。確認することで理解が十分でない点を明確にし、すべて理解するまで指導できるようになるからです。
その結果、1か月後にはミスが大幅に減り、1年後には営業成績でも活躍できるようになりました。その頃、Cさんの異動前の部門にいた人が同じ部署に異動してきたのですが、「あんなにミスが多かったCさんがこんなに活躍している」と目を見張るほど大きく成長しています。
同じくB課長の部下である30代前半の主任のDさんは、同僚と一定の距離を置き、信頼関係を作りたがらない傾向がありました。B課長の下には係長がおらず、D主任がいて、さらにその下にスタッフがいるという組織でした。つまりD主任はリーダーとしての責任も負っていましたが、リーダーとしての職務に戸惑い、後輩との信頼関係も希薄でした。仕事の指導は丁寧にするものの、信頼関係を作ろうという意欲自体が見られないのです。
D主任が人間関係に消極的になった背景には、信頼していたお客様が離れてしまったという過去の経験がありました。しかしB課長との相互理解を深めた結果、D主任は再び信頼関係作りに前向きに取り組むようになりました。現在は、後輩との信頼も高まり、面倒見も良くなり、B課長の右腕としてリーダーシップを発揮し、チーム全体の信頼関係もより強固になりました。
リース営業部全体を見ても、お客様との信頼関係はより強固になっています。たとえば顧客企業の社長を相手にすると恐縮して、まともに話ができないスタッフも多くいました。しかし思い切って生き様インタビューをした結果、出身地や出身校が同じだったり、共通の知人がいたり、共通の趣味を持っていることがわかったりしました。その結果、意気投合することが増え、どのスタッフも社長相手でもリラックスして話せるようになっています。
お客様との信頼関係ができたおかげで、競合他社からの契約切り替え件数も増加しています。2022年度の下半期の増車受注は前年比125%増を達成しました。顧客内シェアもアップしています。
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以上、本書「人間力を磨き、人生を楽しむ」の抜粋です。