経営コラムColumn

自己実現と人材育成の極意シリーズ「人間力を磨き、人生を楽しむ」

はじめに・執筆にあたって

私は、1985年に経営コンサルティング会社に入社し、2005年に子会社(車買取販売のカーリンク本部)の社長に就任しました。その後継会社(現、株式会社チームエル)の一部門を2018年に株式会社アビリティブルームコンサルティングとして分離し、2023年の現在に至ります。約40年にわたり、顧客企業の経営コンサルティングと自らの企業経営を通じて1,000人をはるかに超える人材育成に関わってきました。

私どものコンサルタントも20年以上、ともに仕事をしてきた同志です。全員がスキルを中心にした研修はもちろん、受講生の人間性を伸ばす「人間力」に着目した研修も行っています。
私たちが人間力に着目して研修を行うようになったきっかけは、2005年に車買取店の再建を託されたことでした。再建にあたり自動車の買取だけでは事業が成り立たないと判断し、買取だけでなく販売も行うように業態を変えました。
しかし、買取の商談と販売の商談は違います。そのため社員は新たに販売商談を学ぶ必要に迫られました。小規模ならOJTが有効ですが、店舗数15店、社員100名を数える規模なので、OJTを行うには手が足りません。そこで商談のロールプレイング研修を繰り返し行ったのですが、何度研修を行っても合格レベルに達しない社員が何人も出てきたのです。
なぜ、彼らは合格レベルに達しなかったのでしょうか。販売商談では、お客様に「私のことを考えてくれている」と安心していただき、信頼していただかなければいけません。しかし彼らの商談内容や態度は、信頼するには何かが足りなかったのです。端的に言うならば、その「何か」は誠実さや素直さです。そのため、マニュアルに沿った商談はできても、お客様からの信頼がなかなか得にくく、合格レベルに達することはもちろん、実際の業務でもなかなか成果が出せない状態に陥っていました。

そこで研修の内容を見直し、彼らにまず自分の人間力に関する課題を自覚させ、上司も巻き込んで次の研修までに課題を克服させるようにしました。その結果、合格までの時間は大幅に短縮され、従業員の商談スキルはもちろん人間力もアップ。会社再建を託された3年後には、車買取店の経営は黒字転換したのです。
この経験から、私は社員に研修内容を受け入れるキャパシティ、つまり人間としての器がきちんとできていないと、スキル研修を行っても成果は上がらないと考えるようになったのです。
もともと私は、人間力が人の成長を大きく左右することを経験則として理解し実践していました。私の部下の多くは自然に人間力を伸ばし、力を発揮するようになるため「人材再生工場」というあだ名をつけられたほどです。私のこの知見を車買取店の再建を通じて体系化しました。そして「研修の成果を上げるには、まず人間性をきちんと教育する必要がある」と全社的に認識させた上で、人間力重視の研修メニューを開発、提供しはじめました。
人間力重視の研修の成果はめざましいものでした。研修を受けた人材一人ひとりが主体性を発揮して業務を行うようになり、企業全体の業績も向上し、多くの感謝の声をいただくようになりました。

一連の話を聞くと、人間力をつけるべきは部下であると思う人もいるでしょう。しかし実際は、人間力が不足しているために部下に寄り添い指導することができない上司というのもまた存在します。何度注意しても同じミスを繰り返す部下に悩む上司は多いでしょう。しかしこの場合も、上司が人間力を発揮して部下に寄り添い、ミスの原因を推測しそれに合わせた指導をすれば、見違えるように部下は変化し、成長します。私たちはそのような事例を数多く見てきました。つまり、人間力は部下・上司関係なく持つべきもの、磨くべきものなのです。
人間力は道徳や倫理のような堅苦しいものではありません。居心地がいい飲食店を見つけ、店長や常連と気さくに会話する。相手に興味を持ち、質問する。相手と自分の共通点を見つけ、その話題で盛り上がる。相手に悩みや課題があれば、その解決のために自分の知見や人脈を使って何かできないか考え、行動する。その結果、相手が喜び笑顔になる。このような社交的な行動もすべて、人間力から生まれます。
つまり、人間力とは、自分と周囲を楽しく幸せにする力と言っていいでしょう。だからこそ、仕事においても、人生そのものにおいても、人間力は欠かせないものなのです。

本書では、人間力について、個人が自己実現し人生を楽しむ方法から組織の人材育成まで、個人・組織両面からお伝えします。私どもが提供している人間力を伸ばす研修の利用者の声も盛り込み、人間力を伸ばせばどのような変化が生まれるかイメージしやすくもしています。

私どもの会社名「アビリティブルーム」には、人の「才能=アビリティ」を「開花させる=ブルーム」という願いが込められています。才能を開花させ自分の人生を楽しむために、組織全体の人材を育成し会社の業績を向上させるために、ぜひ本書をご活用ください。

第1章 人生を楽しむ

面白きこともなき世を面白く、すみなすものは心なりけり
「面白きこともなき世を面白く、すみなすものは心なりけり」。幕末の志士・高杉晋作の辞世の句です。もっとも、彼が詠んだのは上の句のみ。下の句は彼が力尽きたのちに、最期に立ち会っていた勤王家・野村望東尼が詠んだものです。
私は中学生の時に、この句を知りました。「この世は心の持ち方次第で面白くできる」という意味だとはわかったのですが、具体的にどのような心の持ち方をすれば面白くできるのか、当時の私にはまったく見当がつきませんでした。
やがて成長してコンサルタントになった私は、数多くの会社や人と関わりました。その経験から私は今、この句が説く「心の持ち方」すなわちこの世を面白くする極意は次の2つであると考えています。

・仕事に生きがいを見つける
・ネガティブ感情を抑制し、ポジティブ思考への転換で幸福感を高める

ではまず、それぞれのポイントについてお話ししましょう。

仕事に生きがいをみつける

私たちの研修の受講者に事前アンケート調査をすると、全体の3割程が「仕事は楽しくない」と答えます。また、全体の6割程度が「仕事は楽しいが、生きがいとまでは感じない」と答えます。この割合は、どの企業のどの職種でもあまり変わりません。詳しく話を聞くと、仕事が楽しくない、生きがいとまで感じない人はおおむね「生きがいは趣味、友人との付き合い、家族を幸せにすることなどプライベート中心であり、仕事はそのために必要なお金を得る手段である」と考えているようです。

確かに、家族が幸せに暮らすには仕事で収入を得る必要があります。プライベートが大切なので、仕事に生きがいを感じるなんてあり得ないと思う人もいるでしょうし、自分は会社から求められていることをしているだけであり、生きがいを感じるほど主体的に行動していないと考えている人もいるでしょう。
しかし、私たちは1日のほとんどの時間を仕事に費やしています。1日のほとんどを、楽しくなく、生きがいも感じない時間として過ごすのは少々残念な話です。視界を広くして、幸せにしたい対象を自分や家族だけでなく、お客様や社会へと広げていけば、生きがいは得られます。そして、誰かを幸せにしたい、喜ばせたいという気持ちで行動すれば、仕事だけでなくあなたの人生そのものも楽しくなります。
30代のカーディーラースタッフがいました。彼は営業成績が上がれば達成感を、お客様に感謝されると喜びを感じます。しかし、仕事に生きがいまでは感じていませんでした。私は彼に、「お客様と車以外の話もして、何か役に立てることがないか考えてみては」とアドバイスしました。

その後、彼は、お客様の夢や悩みに耳を傾けるようにしたそうです。すると、会社を経営しているお客様が人材不足に悩んでいることと、別のお客様が転職を考えていることを知りました。2人の悩みを聞いた彼は、経営者のお客様に転職希望のお客様を紹介しました。マッチングは大成功し、彼は双方から感謝されたそうです。
アドバイスを受けてから年後、彼は見違えるように変化しました。お客様の役に立ち、喜んでもらうことが生きがいとなったのです。お客様からの信頼も厚くなり紹介受注が増え、全社トップの営業成績を上げることもできました。
自分はディーラースタッフだから車のことしか話題にしない。それもひとつの考え方ですが、それだけではお客様を喜ばせることは難しいでしょう。お客様にもっと関心を持ち、車以外にも視野を広げてみれば、お客様にも喜んでいただき、関係も深まります。仕事も、ひいては人生ももっと楽しくなります。具体的方法は第4章第6節「傾聴と共感力」で紹介しますので、まずお客様の話に耳を傾け、質問することから始めてみてください。
業績・成果を上げることで得られる達成感だけでは、モチベーションは維持できません。モチベーションの維持には、お客様や仕事仲間に安心、喜び、感動を与えて得られる幸福感が必要です。
子どもの頃からスポーツなどの習いごとを行っている人は、練習の成果が出て試合に勝ったり、コンクールで受賞したりすることで、達成感を得られると思います。達成感はより高みを目指すモチベーションとなり、プロを目指す人もいるでしょう。

しかし、実力が伸び悩んでくると達成感だけでは前に進めなくなります。その時にモチベーションとなるのが、親や先生、友人、ファンなどの存在です。誰かが喜んでくれると思えばこそ、前に進みたいというモチベーションが出てきます。成果という左脳的価値、誰かを喜ばせるという右脳的価値がかみ合ってこそ、モチベーションを持ち続けることができるのです。
経営コンサルタントという仕事は、給与の高さなどから人気を集めています。しかし、給与が高いだけでこの仕事を選んでも生きがいは得られないでしょう。私はときどき、元受講生から「以前受講した研修が転機になりました。あの研修のおかげで今の私があります」と感謝の言葉をいただくことがあります。この瞬間、私は自分の仕事に大きな生きがいを感じます。

何かを目指す最初の動機は、かっこいい、金持ちになりたいといった自利の心から始まることは否定しません。しかし、その自利を自利利他の心に、そして生きがいにまで高めなければ、歩み続けるモチベーションは得られません。仕事を通じお客様に喜んでいただき、それを自分の喜びとして感じることは誰にでもできるはずです。誰かに喜んでもらうことを自分の喜びと感じ、生きがいと感じられるようになれば、人生はより楽しく、充実したものになります。

ネガティブ感情を抑制し、ポジティブ思考を習慣化する

同じ境遇に置かれても、不満を感じる人もいれば、感謝の気持ちを示す人もいます。怒りやイライラなどのネガティブ感情は、誰にでも生じるものです。しかし、その感情を冷静に受け止め、視点を変えて考えれば、ポジティブに考えられるようになるものです。ここでは、大きく5つのネガティブ感情をポジティブ思考に変える方法について考えてみます。

1 自分勝手な怒りを抑える
思い通りにいかない怒りは理不尽で自分勝手なものです。自分の思い通りにいかないと、周囲に八つ当たりする人がいます。そのような人は周囲から距離を置かれ、孤立が深まり、さらに怒りが増す悪循環に陥りがちです。
あおり運転をする人、コンビニエンスストアや飲食店で店員に大声で怒り狂う人は、だいたいこのタイプといえるでしょう。自分の思い通りに周囲が動かないからといって相手を責めるのはおかしな話です。確かにあおられている運転者やお店側にも落ち度がある可能性もありますが、気に入らないことがあればその場は適当にやり過ごし、速やかに立ち去ったほうが賢明です。
自分勝手な人は、ズルや嘘、他責などのわがままで周囲を振り回していることに気づいていません。子どもであれば、駄々をこねて泣きわめく、口答えするなどわがままもするでしょう。しかし成長すればわがままを慎むようになります。自分勝手をしたところで誰も幸せにならない、それどころか自分に対する信頼が損なわれ、人間関係も悪化するだけだと学ぶからです。

残念ながら、中にはこのような学びを得ないまま大人になってしまう人がいます。自分勝手だと言われたことがあるなら、自分を客観的に見て、自分勝手な行動を慎む必要があります。
人は損得勘定で動きがちです。自分勝手な行動は、短期的には自分の欲を叶え、得ができることもあります。しかしその得は、周囲が享受すべき便宜や利益を奪うものです。自分勝手で周囲から奪うばかりの人は、自分自身の信頼や人間関係などを失う悪循環に陥ってしまいます。
自分勝手を慎むことは、短期的に見れば望みが叶わない、損な行動だと思います。しかし長期的に見れば、自分勝手を慎み相手に手を差し伸べる人は、信頼や良好な人間関係を積み重ねられる好循環に恵まれます。奪うことから与えることへ価値観を変えれば、人は子どもから大人へと成熟していけます。
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以上、本書「人間力を磨き、人生を楽しむ」冒頭の抜粋です。

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代表取締役会長 沖 晋 Susumu Oki

1960年北海道生まれの九州育ち。1985年上智大学卒業後、大手経営コンサルタント会社入社。
業種業界問わず、戦略策定支援、人材育成支援等、多岐に亘るテーマで300社以上の企業に対してトップコンサルタントとしての指導実績を持つ。
営業力、商品力双方の強化による業績改善を得意とする。

また、実業進出後は、理念経営による人材育成、組織開発を重視するようになった。理念、戦略、商品力、現場まで首尾一貫した組織づくりによる企業再建も経験豊富。

2004年から車買取販売カーリンク本部の代表者となり実業にも進出。2019年現在100店舗展開中のカービジネス研究所取締役会長も兼務する。

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