部下の幸せのために上司がいる和田 富夫
シャープの研究所で世界初の「液晶」の実用化に成功した和田富夫氏。かつて、壁掛けテレビ開発のリーダーでしたが、製品化の見込みが立たずにチームは解散。自身も部下も開発部門から離れることになります。新技術の開発に燃えて入社した若手の将来を閉ざしてしまったことを悔いた和田氏の言葉です。
その後、新しいプロジェクトに集まった、日の当たらない場所にいた技術者と新入社員たちを鼓舞し、1万回を超える執念の実験の末に、アメリカの大手企業もあきらめた「液晶ディスプレイ」を実用化しました。
リーダーの研修をしていると、「部下は上司の指示に従って働くもの」としか見ておらず、「部下の幸せのためにいる」との思いがある上司は少ないと感じます。部下は、人生の貴重な時間を仲間として仕事に捧げてくれているのであり、上司や先輩からの指導・教育によって、その人生も大きく変わっていきます。部下を成長させ、幸せにすることが、リーダーの使命だと考えています。
部下を幸せにするために、特に重要なのは、「人間力」を鍛えることです。身勝手な人、素直さや誠実さに欠ける人、すぐ感情的になる人は、周囲から見放されます。また、向上心がないと、成長を実感できず、達成感も得られず、張り合いのない人生を送ることになります。人間力に課題がある部下には、「今のままでは、幸せになれない」ことを諭して、その習慣を改めるまで指摘と助言を繰り返します。
私が担当した若年次研修の受講者は、上司から「自己中心的で素直さに欠ける。お客様とも言った言わないのクレームが多い」との厳しい指摘に対して、「あれは忙しかったから」、「僕なりに頑張っている」との言い訳が続きました。
私から、「周囲の助言を受け止めず、姿勢を改めないようでは、いずれ上司や同僚、お客様からも相手にされなくなり、不幸な人生を歩むことになる。このままでいいのか」と迫りました。
彼は、しばらく沈黙した後、泣き始め、「今のままでは、まずいと思っている。どうすれば良いですか?」と心を開いてくれたのです。
そこで、「上司や先輩に、自分本位の言動があったら、指摘してくださいとお願いして、その指摘を素直に聞き入れましょう」と助言しました。
数か月後、見違えるように表情も明るくなり、お客様や周囲のことを考えて行動するようになったのです。
部下が幸せになれるように、その人間力を鍛えることを使命とすることを、皆様にもお勧めします。